第5章 地上安全要求

HOSPO-RSM-V1-005 | Rev. 0.2 — Draft

Volume 1 — Range Safety Requirements

Chapter 5 — Ground Safety Requirements / 第5章 地上安全要求

5.1 本章の目的

本章は、射場への機体搬入から打上げ(リフトオフ)に至るまでの間、または打上げ中止後の安全化(Safing)作業において、推進剤、火工品、高圧ガス、および機械的・電磁的エネルギーに起因するハザードから、一般公衆、射場作業員、および射場設備を保護するための最上位要求を定める。

参照 本章の各要求と技術的適合手段(Vol.2)との対応は、本章付録A「地上安全要求・適合手段マトリクス」を参照のこと。射場事業者(HOSPO)と打上げ事業者の責任分界はVol.1 付録C「責任分担マトリクス」を参照のこと。

5.2 用語の定義(本章固有)

用語 定義
必須人員 (Essential Personnel) 打上げ管制・安全監視等の理由から、危険作業中または打上げ時に警戒区域内に留まることが運用上不可欠な要員。防護施設(ブロックハウス等)内への配置が義務付けられる。
非必須人員 (Non-Essential Personnel) 危険作業中または打上げ時に警戒区域内に留まる必要がない要員。危険作業開始前に警戒区域外へ退避させなければならない。
危険作業 (Hazardous Operations) 推進剤充填、火工品結線、高圧システムの加圧など、死傷または重大な設備損傷を引き起こす潜在的リスクを伴う作業の総称。
爆発物サイトプラン (ESP: Explosives Site Plan) 射場内の火薬類・推進剤の最大保有量と配置、および周辺施設・公道に対するQD(安全離隔距離)の確保状況を示す図面・計算書。
LOTO (Lockout/Tagout) メンテナンスまたは危険作業中に、予期せぬエネルギー放出を防ぐための物理的施錠(Lock)と標識(Tag)による安全確保手順。
HERO / HERP HERO: Hazards of Electromagnetic Radiation to Ordnance(RF放射による火工品誤作動リスク)。HERP: Hazards of Electromagnetic Radiation to Personnel(RF放射による人体への健康被害リスク)。

5.3 爆発物および危険物質の管理

打上げ事業者は、火薬類および推進剤の保管・取扱いに際し、爆発や漏洩による被害を極限するための厳格な管理体制を維持するとともに、日本の関係法令を遵守しなければならない。

5.3.1 安全離隔距離(QD: Quantity-Distance)の順守

打上げ事業者は、射場内に持ち込むすべての固体推進薬、液体推進剤(LOX・LCH4等)、および火工品の最大保有量(TNT当量)を算出しなければならない。この量に基づき、周辺の公道、重要インフラ、および他の事業者の施設に対して、規定された安全離隔距離(QD)を確保していることを証明する「爆発物サイトプラン(ESP)」を作成し、HOSPOの承認を得なければならない。

参照 QDの算出基準および ESPのフォーマット要件はVol.2 GS-103「爆発物量距離(QD)基準」およびGS-111「地上安全データパッケージ提出仕様」に従うこと。

5.3.2 火薬類取締法に基づく管理体制

打上げ事業者は、固体ロケットモーター、FTS用爆薬、および分離機構等の火工品を取り扱う場合、火薬類取締法に基づく以下の要件を満たさなければならない。

  • 有資格者である「火薬類取扱保安責任者」を選任し、射場での火薬類取扱作業を直接指揮させること。

  • HOSPOの指定する火薬庫(または法的に認可された保管施設)において、法定の貯蔵・受払管理を厳格に行うこと。

  • 打上げまたは試験における火薬類の消費にあたり、管轄行政庁(北海道知事等)からの「火薬類消費許可」を適法に取得し、その写しをHOSPOへ提出すること。

5.3.3 推進剤および化学物質の管理

✎ 修正 旧§5.2.2(重複節番号)を§5.3.3に修正。高圧ガス保安法への参照を追加。

極低温推進剤(LOX・LCH4等)、高圧ガス、および毒性物質の保管・移送設備は、以下の要件を満たさなければならない。

  • 漏洩防止機構および過圧放出(Venting)設備を備えること。

  • 適切な接地・ボンディング(静電気対策)が施されていること。

  • 高圧ガス保安法に基づく設備基準および定期検査要件を満たすこと。

  • 推進剤漏洩時の環境影響評価および緊急対応手順をVol.2 ENV-104「推進剤漏洩時の環境影響評価標準」に従って整備すること。

5.3.4 寒冷気候・冬季運用時の追加要件

★ 追加 大樹町の積雪・凍結環境を踏まえた要件を新設。Esrange ESM§6 Winter Operationsを参考。レビュー指摘E-1への対応。

HOSPOは北海道大樹町に位置し、年間複数月にわたる積雪・凍結・低温環境下での運用が想定される。打上げ事業者は以下の冬季固有リスクへの対応を運用安全計画(OSP)に含めなければならない。

  1. 極低温推進剤と外気温の相互作用評価 — 外気温が設計範囲を下回る場合の推進剤の挙動変化(粘度変化・氷結リスク)を解析し、運用限界温度を定義すること。

  2. 配管・センサー・バルブの凍結対策 — 凍結による機能喪失を防ぐための保温・加熱措置、および凍結発生時の復旧手順を整備すること。

  3. 降雪・積雪による視程および射場視認性の確保 — 打上げ前の射場クリアランス確認時に降雪・霧による視程低下を考慮した代替確認手順を定めること。

  4. 除雪作業中の安全確保 — 機体周辺での除雪作業は、推進剤充填前後の危険作業手順に準じた統制下で実施すること。

参照 冬季LCC(Launch Commit Criteria)の気象パラメータ(気温下限・風速制限等)はVol.3 OPS-108「気象観測運用・LCC判定手順」に定める。

5.4 危険作業およびアクセス統制

推進剤充填、火工品の結線、高圧システムの加圧など、致命的なリスクを伴う危険作業においては、厳密な手順管理とアクセス統制が要求される。

5.4.1 危険作業手順書の事前承認

打上げ事業者は、すべての危険作業に関する詳細な作業手順書(Hazardous Ops Procedure)を作成し、HOSPOのインフラ限界および安全規則への適合について、HOSPOの事前審査および承認を受けなければならない。

参照 危険作業手順書の記載要件はVol.2 GS-101「危険作業および推進剤取扱いの標準安全要件」に従うこと。

5.4.2 従事者防護および退避運用統制

打上げ事業者は、推進剤の最大爆発威力および有毒ガス飛散解析に基づき、危険作業中および打上げ時における人員暴露・退避距離を算出しなければならない。

  1. 必須人員の防護 — 算出された限界距離内に留まることが運用上必要な必須人員は、爆風等に耐えうる防護施設(ブロックハウス等)内に配置されなければならない。

  2. 非必須人員・公衆の排除 — 算出された警戒区域(Hazard Area)内から、すべての非必須人員および一般公衆を、危険作業開始前に完全に退避させなければならない。

  3. 退避完了の確認 — HOSPOのRSOは、退避完了の確認なしに危険作業の開始を承認してはならない。

5.4.3 ロックアウト・タグアウト(LOTO)の共同運用

共有インフラ(電源・高圧ガス配管等)のメンテナンスまたは危険作業中における予期せぬエネルギーの放出を防ぐため、打上げ事業者とHOSPOは、労働安全衛生法および国際標準(ISO 50001等)に準拠したLOTOプログラムを共同で運用しなければならない。

重要 双方の責任者が物理的な施錠(Lock)と標識(Tag)による安全確認を完了するまで、システムの起動を固く禁ずる。LOTOの詳細手順はVol.2 GS-106「危険周知・作業許可およびLOTO実施基準」に従うこと。

5.5 RFハザード管理(HERO / HERP)

✎ 修正 章タイトルを「電磁環境適合性およびRFハザード」から「RFハザード管理(HERO/HERP)」に修正。内容に即したタイトルに変更。EMC全般を扱う場合は別節の追加を検討。

打上げ事業者は、機体および地上設備から発せられるRF(電磁波)が、火工品・他システム・人体に有害な影響を与えないことを保証しなければならない。

5.5.1 HERO / HERP 解析と送信承認

打上げ事業者は、自らの発信電波がHERO(火工品誤作動リスク)およびHERP(人体健康被害リスク)を引き起こさないことを解析し、証明しなければならない。射場内でのRF送信は以下のプロセスを経ること。

  1. 電波プロファイル(RF Profile)をPhase 2提出物としてHOSPOへ提出すること。

  2. HOSPOによる電波プロファイルの事前審査・承認を得ること。

  3. 打上げ当日のRF送信は、HOSPOの当日送信許可(RF Clearance)取得後に開始すること。

参照 HERO/HERP解析の手法はVol.2 GS-101「危険作業の標準安全要件」を参照。当日の送信許可手順はVol.3 OPS-104「射場運用規則(Launch Rules)」に従うこと。

5.6 射場設備およびインターフェースの安全

打上げ事業者が持ち込むGSE(地上支援設備)、およびHOSPOが提供する共有設備(パッド・配管・電源インフラ等)は、結合された状態で安全に機能しなければならない。

利用開始前に、以下の「運用前安全認証」を実施しなければならない。

  • 推進剤配管の耐圧試験およびリークテスト

  • 高圧ガス設備の検査(高圧ガス保安法に基づく定期検査を含む)

  • 制御系のインターフェース検証(ICD: Interface Control Document に基づく確認)

NOTE 運用前安全認証の主責任は打上げ事業者が負い、HOSPOがインフラとの適合性を審査・承認する。詳細はVol.1 付録C「責任分担マトリクス」§3「地上安全」の「共有インフラの保守・点検」の項を参照のこと。

参照 運用前安全認証基準の詳細はVol.2 GS-108「射場設備およびインフラ運用前安全認証基準」およびGS-110「高圧ガス設備安全基準」に従うこと。

付録A — 地上安全要求・適合手段マトリクス

✎ 修正 旧§5.6のマトリクスを付録Aとして再配置。OPS番号をv2.0体系(OPS-106・OPS-104等)に統一。

規定項目 要求内容(What) 提出・証明要件 適用される技術標準・運用規程
安全離隔距離(QD) およびESP 推進剤量等に基づく爆発被害を施設内に局限すること。 最大TNT当量に基づくQD計算書およびESPの提出と承認。 GS-103 爆発物量距離(QD)基準 GS-111 地上安全データ提出仕様
火薬類取締法に よる管理 有資格者による安全な取扱いを徹底し、違法な保管・消費を防止すること。 火薬類取扱保安責任者の選任届および「火薬類消費許可証」写しの提出。 GS-101 危険作業の標準安全要件 GS-107 推進剤・危険物等管理基準
推進剤・危険物質管理 極低温推進剤や高圧ガスを安全に保管・移送すること。 ボンディング・Venting・漏洩防止策が講じられた設備設計・管理手順の提出。 GS-107 推進剤・危険物等管理基準 GS-110 高圧ガス設備安全基準
冬季・寒冷気候 運用対策 凍結・低温環境下での安全な運用を確保すること。 冬季固有リスクへの対応計画(凍結対策・運用限界温度定義等)をOSPに含めること。 GS-107 推進剤・危険物等管理基準 OPS-108 気象観測運用・LCC判定手順
危険作業手順 (Hazardous Ops) 推進剤充填等の高リスク作業を統制された手順で実行すること。 ハザード緩和策が反映された詳細な「危険作業手順書」の提出と承認。 GS-101 危険作業の標準安全要件 GS-104 地上ハザード解析標準
従事者防護と 退避運用 爆風・有毒ガスから必須人員を保護し、公衆を排除すること。 爆発・拡散解析に基づく退避距離の算出、および当日の警戒区域クリアランス体制の構築。 GS-102 人員暴露・退避距離基準 OPS-106 警戒区域監視・クリアランス判定
LOTOプログラム (労働安全衛生法) 予期せぬエネルギー放出による人的被害・設備損傷を防ぐこと。 射場インフラと接続する系統における厳密なLOTO手順の確立。 GS-106 作業許可およびLOTO実施基準
RFハザード管理 (HERO/HERP) RF送信による火工品誤作動や人体への危害を防止すること。 HERO/HERP解析結果および電波プロファイルの提出、ならびに送信許可の取得。 GS-101 危険作業の標準安全要件 OPS-104 射場運用規則(Launch Rules)
設備運用前安全認証 GSEおよび射場インフラが安全に機能することを実証すること。 推進剤配管の耐圧・リーク試験結果、および制御系インターフェース検証結果の提出。 GS-108 設備運用前安全認証基準 GS-110 高圧ガス設備安全基準