第10章 緊急事態管理要求
HOSPO-RSM-V1-010 | Rev. 0.2 — Draft
Volume 1 — Range Safety Requirements
Chapter 10 — Mishap Management Requirements / 第10章 緊急事態管理要求
10.1 本章の目的
本章は、打上げ中の機体爆発・FTS作動・地上での推進剤火災等の重大事象(Mishap)、および地震・津波等の大規模自然災害が発生した場合において、人命の救助、事態の収束、原因究明のための証拠保全、および射場インフラの復旧を確実にするための最上位要求を定める。
参照 本章の要求はChapter 2(§2.5「安全関連データの保存要求」・§2.5「教訓の反映と是正措置」)と連携する。事故発生前からSS-107に基づく継続的なデータ保存が実施されていることが、§10.3「Data Impound」の前提条件となる。
10.2 用語の定義(本章固有)
★ 追加 ERP等の略語が本文中で初出するため用語定義節を新設。
| 用語 | 定義 |
| Mishap(重大事象) | 打上げ中の機体爆発・FTS作動・地上での推進剤火災・人身事故等、人命・財産・環境に重大な影響を及ぼす事象。Near-Miss(ニアミス)を含む。 |
| ERP (Emergency Response Plan) | 緊急時対応計画。Mishap発生時の初動対応・指揮系統・連絡先・避難手順等を定めた事前承認済み文書。 |
| Data Impound (データ保全) | 事故調査に必要なテレメトリ・通信記録・映像等へのアクセスを即時ロックし、改ざん・消失を防ぐ措置。 |
| Incident Commander (現場指揮者) | Mishap発生時にHOSPOが任命する現場統制責任者。消防・医療機関との連携、立入制限区域の設定・解除権限を保有する。 |
| Return-to-Flight (RTF:飛行再開) | Mishap後に同型機の打上げを再開すること。根本原因の特定・是正措置の実装・HOSPOおよび関係当局の承認が条件となる。 |
| BCP (Business Continuity Plan) | 事業継続計画。大規模自然災害等によって射場インフラが損壊した場合の復旧タイムライン・代替手段・責任分担を定めた文書。 |
10.3 緊急事態対応および人命救助
事象発生時における最優先事項は人命の保護および二次災害の防止である。
10.3.1 運用停止および初期対応
事故または重大な異常が発生した場合、打上げ事業者およびHOSPOは、直ちにカウントダウンおよび射場内のすべての危険作業を停止(Stop Work / Hold)し、ERPを発動しなければならない。
ERPはPhase 2のOSP提出時にHOSPOへ提出し、承認を得ること。ERPには以下を含むこと。
-
指揮系統(Incident Commander・打上げ事業者安全責任者・HOSPOの役割と権限)
-
初期対応手順(Stop Work発動基準・人員退避ルート・集合場所)
-
地元消防・医療機関への通報手順と連絡先
-
推進剤・火工品の緊急安全化手順
参照 ERPの詳細技術基準はVol.3 EM-101「事故(Mishap)発生時の緊急通報・初期対応手順」に従うこと。
10.3.2 消防・医療機関との連携
HOSPOは、地元消防機関および医療機関と事前合意した出動プロトコルを維持する。打上げ事業者は、火災鎮圧および負傷者の救護にあたり、HOSPOのIncident Commanderの指示に従い、地元機関の活動に全面的に協力しなければならない。
参照 火災・毒性漏洩時の消火・中和手順の詳細はVol.3 EM-102「火災・毒性漏洩時の消火・中和手順」に従うこと。
10.4 事故報告および証拠保全
打上げ事業者は、重大事象の発生を速やかに報告し、原因究明に必要なすべてのデータを改ざん・消失から守る義務を負う。
10.4.1 関係当局への迅速な第一報
✎ 修正 「JTSB」はロケット事故の管轄外である可能性が高い(JTSBの管轄は航空・鉄道・船舶)。「日本の関係当局(内閣府・国土交通省等)」に統一。
事象発生後、または人命救助の初期対応が完了した後速やかに、打上げ事業者はHOSPOのRSOへ事象を通報しなければならない。その後、以下の当局へ事前に定められたプロトコルに従って第一報を入れなければならない。
-
内閣府宇宙政策担当部局(宇宙活動法に基づく報告義務)
-
国土交通省(航空・海上安全への影響がある場合)
-
警察・消防・海上保安庁(現場対応機関)
-
米国FAA商業宇宙輸送局(AST)緊急対応センター(米国企業が関与する場合)
参照 通報プロトコルの詳細はVol.3 EM-101「事故(Mishap)発生時の緊急通報・初期対応手順」に従うこと。
10.4.2 データおよび記録の即時保全(Data Impound)
事故発生が宣言された瞬間、打上げ事業者およびHOSPOは、以下のすべてのデータへのアクセスを即時ロック(Impound)し、データの書き換えや消失を防ぐ措置を講じなければならない。
-
テレメトリデータ(飛行データ一式)
-
射場管制室(MOC: Mission Operations Center)のレーダー軌跡
-
音声通信記録(Voice Loop)
-
監視カメラ映像(CCTV)
-
射場運用ログおよび作業記録
重要 Data Impoundの前提として、Chapter 2 §2.5「安全関連データの保存要求」およびVol.2 SS-107「安全関連データ保存および記録管理基準」に基づく継続的なデータ保存が実施されていること。
10.4.3 現場保全
負傷者の救助および火災鎮圧(二次災害防止)が完了した後は、内閣府・国土交通省・警察・消防またはHOSPOからの正式な許可が出るまで、事故現場の残骸(Debris)、機体破片、および地上支援設備(GSE)を一切移動・廃棄してはならない。
参照 事故現場保全・原因究明委員会運営プロセスの詳細はVol.3 EM-103「事故現場保全・原因究明委員会運営プロセス」に従うこと。
10.5 事故調査協力および飛行再開(Return-to-Flight)
打上げ事業者は、内閣府・国土交通省・警察・消防等の日本の関係当局、または米国のFAA等が実施する公式な事故調査に対し、全面的に協力しなければならない。
同型機の飛行再開(Return-to-Flight)は、以下のすべての条件が満たされるまで許可されない。
-
事故の根本原因(Root Cause)が特定されていること。
-
HOSPOおよび関係当局が承認する是正措置(Corrective Actions)が実装されていること。
-
是正措置の有効性が検証されていること。
-
HOSPOのRSOがReturn-to-Flightを承認していること。
参照 教訓の文書化・是正措置の管理はChapter 2 §2.5「教訓の反映と是正措置(CAPA)」およびVol.2 SS-105「教訓および是正措置管理基準」に従うこと。
10.6 大規模災害対策および事業継続計画(BCP)
北海道沿岸部特有の自然災害(巨大地震・津波・猛吹雪等)による甚大な被害を想定し、強靭なインフラ管理と事業継続体制を整備しなければならない。
10.6.1 災害時のダメージコントロール
大規模災害の警報(大津波警報等)が発令された場合、打上げ事業者はHOSPOが定める避難プロトコルに従い、人員の高台等への退避を最優先に実施しなければならない。
退避と同時に、以下のフェイルセーフ(Safe Shutdown)措置を自動または遠隔で実行できるシステムを実装しておかなければならない。
-
極低温推進剤の自動ベント(Venting)
-
高圧ガスラインの緊急遮断
-
火工品の安全化(Safe状態への移行)
参照 防災・避難計画の詳細はVol.3 EM-104「射場緊急事態対応および防災訓練基準」に従うこと。
10.6.2 不可抗力(Force Majeure)と事業継続計画
✎ 修正 不可抗力免責条項は法的性格が強いため、要求本文では「BCP策定義務」に焦点を絞り、免責の詳細は利用契約書に委ねる構造に修正。
HOSPOおよび打上げ事業者は、想定外の自然災害による射場インフラの損壊に備えた「事業継続計画(BCP)」を共同で策定・維持しなければならない。BCPには以下を含むこと。
-
インフラ損壊の規模別復旧タイムラインと責任分担
-
打上げスケジュール遅延時の代替対応手順
-
推進剤・機体の安全な長期保管または撤収手順
想定外の自然災害を原因とするインフラ提供の遅延・停止に係るHOSPOの免責範囲は、利用契約書の不可抗力条項(Force Majeure Clause)に定める。
参照 BCPの詳細技術基準はVol.3 EM-104「射場緊急事態対応および防災訓練基準」に従うこと。不可抗力免責の詳細条件は射場利用契約書を参照のこと。
付録A — 緊急事態管理要求・適合手段マトリクス
✎ 修正 旧§10.6のマトリクスを付録Aとして再配置。EM番号をVol.3体系に統一。OP-101(存在しない番号)を削除し利用契約書参照に変更。
| 規定項目 | 要求内容(What) | 提出・証明要件 | 適用される技術標準・運用規程 |
| 緊急事態対応 (ERP) | 事故発生時に人命を最優先し、二次災害を局限する初動体制を確立すること。 | 地元消防等との連携手順を組み込んだERP(緊急時対応計画)の提出(Phase 2)。 | EM-101 Mishap発生時の緊急通報・初期対応手順 EM-102 火災・毒性漏洩時の消火・中和手順 |
| 当局への報告 | 事象発生の事実を隠蔽せず、法で定められた当局へ迅速に通知すること。 | 通報ツリーおよび日本の関係当局(内閣府・国土交通省等)・FAA等への報告プロトコルへの合意。 | EM-101 Mishap発生時の緊急通報・初期対応手順 |
| データの即時保全 (Data Impound) | 事故調査の要となるデータを改ざん・消失から完全に守ること。 | テレメトリ・通信データの即時ロック(Impound)手順と責任者の明確化。 | EM-103 事故現場保全・原因究明委員会運営プロセス SS-107 安全関連データ保存および記録管理基準 |
| 残骸・現場保全 | 原因究明のため、許可なく事故現場の残骸や設備を移動させないこと。 | 鎮火後のDebris回収チーム編成と現場立入制限(封鎖)手順の提出。 | EM-103 事故現場保全・原因究明委員会運営プロセス |
| 大規模災害対応 とBCP | 地震・津波等において人員を退避させ、無人でのインフラ安全化を達成すること。 | 自然災害時の避難計画、推進剤・設備の自動シャットダウン手順、およびBCPの提出。 | EM-104 射場緊急事態対応および防災訓練基準 |
| 不可抗力免責 (Force Majeure) | 自然災害によるインフラ提供の遅延・停止について、法的な責任分界を明確にすること。 | 射場利用契約書内における不可抗力条項(Force Majeure Clause)の締結。 | 射場利用契約書(Vol.1 Chapter 3参照) |